リスク・アセスメント(危険度評価)

仕事を始める前に、現場でリスク・ア セスメント(危険度評価)をすることは非常に重要です。けっこう多くのアーボリスト達がこの考えに躊躇しています。危険度チェックなんて時間の無駄で はないか、事故が起こらない事を祈ってとりあえず仕事を始めた方がいい、という訳です。僕は次の2つの理由からこの考えには賛成出来ません。

第一に、自分が現場監督という立場に ある以上、危険度を軽減し緊急時に備えるという責任を背負う訳ですが責任という以前に、致命的事故の可能性が高い現場で働く仲間を気遣うという人道的な思 いがあるからです。

第二はより経済的な理由です。危険度を考える事は仕事をより多角的に考えられる訳で、結果的に効率よい仕事につながるのです。

下にあるリスク・チャートは解りやすくどんな仕事にも当てはまる便利なチャートです。

ここで大きな楠木から腐った部分を取り除く仕事を想像してみます。枝振りのうち3/4が下に障害のない場所に収まっていて、地上から見ると枯れ枝はほとんどその中に収まっています。残り1/4の内、一本の枯れ枝が遊歩道の上まで張り出しています。この楠木は車を止めた場所から1キロ入った場所にあり、今は真夏で、樹高は約25m。この条件からいくつかの事柄が(全ての作業に共通したものと、この場所に独特なもの)が考えられます。
まずレスキューが必要になった場合、場所の条件から四輪駆動車で現場まで入るかさもなければヘリコプターを要請する事になりますが、この腐った枝によってクライマーがどんな事故を起こす可能性を考えてみます。タイイン・ポイントは地上からはっきり確認できます。枝は健康に見えるし登りも単純に見えます。しかし今日は非常に暑く枯れた部分も20m以上ありチェーンソーを使わなければなりません。しかし仕事にはしっかり報酬があり、時間的にも余裕があって作業中にしっかり水分補給をし休憩が取れます。
そこで僕はチャートの縦軸の可能性を2と考えます。休憩を十分に取れてクライマーがチェーンソー・プロテクションを装着するので足を切る事故の損害(横軸)を3にしました。縦横を合わせると危険度6で危険度中になります。

次に、静かな遊歩道についてですが、時々人が通る可能性はあります。僕はこの状況に縦・横とも3を付けます。ということは危険度9になります。9は危険度中ですから地上作業員は色のハデなベストを着ること、クライマーと常に声を掛け合って枯れ枝を落とす時をはっきりさせるよう打ち合せます。
これらの内容を作業前からチームみんなが理解していれば、一日の作業が安全でスムーズに行くはずです。作業中に新たな問題が発生する事はよくありますが、その都度危険度をチェックし直して作業手順を調整していくのです。

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