木下 啓
ここでは、ARTのブラックバードを実際に使用した私と友人たちの感想を紹介します。ご存知の方も多いと思いますが、ブラックバードはSRS(シングルロープシステム)とMRS(ムービングロープシステム)の両方に対応したクライミングデバイスです。ARTらしく、細部にわたって丁寧に設計されており、革新的な機能が随所に盛り込まれています。
デザインと第一印象
まずは見た目から。ブラックの本体にゴールドのレバーという組み合わせは、とてもクールで印象的です。よく見ると、ゴールドのレバーは鳥のくちばしのような形をしており、全体としてブラックバード(クロウタドリ)の姿を連想させるデザインになっています。新鮮でユニーク、そして遊び心あふれるこのデザインは、まさにARTらしさの象徴です。
このくちばし型のレバーは操作もしやすく、SpiderJack 3を思わせるような使い心地があります。また、ハーネスからデバイスを外さずにロープの脱着ができるのも、大きな利点のひとつです。
ロープの互換性について
次に、ロープとの相性について。直径11.5mm~11.9mmの範囲であれば、ダブルブレイドロープでもパラレルコアロープでも問題なく使用できます。KM-3のような硬めの11mmパラレルコアロープにも対応可能です。軽量なクライマーであれば、標準的な11mmロープでも使えるかもしれません。ただし、私の体重(70kg)では滑ってしっかり止まりませんでした。
ロープ径にある程度の制限はありますが、それでもこの点は大きな強みです。多くのSRSデバイスがパラレルコアを前提に設計されている中で、ブラックバードはMRS・SRS両モードにおいて、ダブルブレイド・パラレルコアの両タイプをスムーズに使える点が、ARTの品質の高さを物語っています。
MRSからSRSへの切り替え
MRSからSRSへの切り替えも非常にスムーズです。ワーキングエンドを外すと、内蔵されたロープレンチが自動的に展開し、そのままSRSモードとして機能します。メカニカルでありながら操作はシンプルで、これもまたARTらしさを感じる部分。まるでトランスフォーマーのように変形するギミックが、とてもかっこいいです。
ロープレンチにはカムが付いていて、回転させることでローフリクションとハイフリクションのモードを切り替えることができます。多くのクライマーはハイフリクション側を好むでしょう。
ロープの流れとパフォーマンス
ロープの流れはとてもスムーズで、特にMRSモードではSpiderJackに匹敵するほど滑らかです。ARTファンであれば納得の仕上がりと言えるでしょう。たるんだロープの回収も非常にスムーズで快適です。
ARTはこれまでMRS用デバイスを中心に開発してきましたが、ブラックバードは初のSRS専用モデルです。その完成度は非常に高く、従来のMRSデバイスにロープレンチを付けてSRS対応させていた時代とは一線を画すコンパクトさと扱いやすさがあります。重量は600gを超え、SRSデバイスとしてはやや重めではありますが、使用感にはまったく問題ありません。
改善の余地
いくつか改善してほしい点もあります。まず、デバイスの開閉は慣れるまでは少し難しく感じます。慣れてしまえばスムーズですが、最初はコツが必要です。
また、11.8mmのパラレルコアロープを装着する際には少し手間がかかります。こちらも使い慣れれば問題ありませんが、多少の工夫と丁寧な扱いが求められます。いずれにせよ、どんなデバイスにも“慣れ”と“工夫”は必要だと思います。
それから、スラック回収用のプーリー部にロープを通し忘れやすいので、そこは注意が必要です。
ARTらしさが光るモジュール構造
― メンテナンス性と部品交換のしやすさ ―
最近の多くの他社製デバイスは、分解可能なパーツが少なく、ユニット単位や本体まるごとの交換が前提になっています。一方で、ブラックバードは細かい部品まで分解できる構造になっており、消耗部品の交換も簡単に行えます。このモジュール設計は、まさにARTらしいこだわりのひとつです。
その他の気になる点
将来的に改善を期待したい点として、3:1のメカニカルアドバンテージシステムを構築する際に、金色のレバー(くちばし部分)の先端がロープに干渉することが挙げられます。使用感としてあまり快適ではありません。
もうひとつは、ロープレンチの可動範囲を制限しているストッパー部分。強い衝撃を受けると破損する可能性があります。実際に私のブラックバードも、6人のクライマー仲間が試している最中にその部分が破損してしまいました。それでも使用上は特に問題なく、今のところパフォーマンスに影響は見られません。この可動制限が本当に必要なのかどうかは不明ですが、おそらくロープレンチの効き具合に関係する設計だと思われます。
結論
以上が、私自身と友人たちによるブラックバード使用後の感想です。MRSにもSRSにも対応したこのデバイスは、ARTファンの期待にしっかり応えるクオリティを備えています。高性能でユニーク、そして実用的な製品として、自信を持っておすすめできる一台です。